歩行の接地は「つま先から?」「かかとから?」
最近、YouTubeなどのSNSで
「つま先から接地した方がスムーズに歩ける」
「踵から着くのは間違い」
といった情報を見かけます。
しかし、これは歩行の運動学から見ると誤解です。
人間が最も効率的に、関節へ負担を少なく歩ける“基本設計”は
初期接地(Initial Contact)は踵から(Heel Strike)
です。

これは“踵で歩くのが正しい歩き方”という単純な話ではなく、
人体の骨格構造・重心移動・床反力など、
歩行という複雑な運動の“最適解”としてそうなっています。
■ 1. 歩行は「足元で体重移動」しているのではない
重心(へその下)が移動し、それに足がついてくる
YouTubeなどで語られがちな誤解は、
「足首やつま先を使って体重移動している」
という考え方です。
実際はまったく逆で、
人間の歩行の主役は 重心です。
▼ 重心の位置
・ほぼ「へその下あたり」に存在
・歩行中は前方へ滑らかに移動する
歩行とは、
重心が前へ倒れそうになるのを、足が“キャッチ”している動作
です。
つまり、
-
重心線(重心から地面への垂線)が落ちる
-
その場所に接地面(足裏)が来る
という順序が本質であり、
足先で体重を「運ぶ」のではありません。
■ 2. 生体力学的に、初期接地は“踵”である理由
歩行は以下のような流れで進みます:
-
初期接地:踵で接地
-
荷重応答期:足底へ徐々に荷重を移す
-
立脚中期〜後期:重心が最も前へ
-
蹴り出し:つま先で地面を離れる
初期接地が“踵”であることには、科学的な理由があります。
① 踵は「衝撃吸収システム」の最前線
踵骨とその周囲の脂肪組織は、
床反力の衝撃を吸収するためのクッション構造を持っています。
もしつま先から接地すると、
-
衝撃がダイレクトに前足部 → 膝 → 股関節へ伝わる
-
ふくらはぎ(ヒラメ筋・腓腹筋)が急激に伸張
-
足関節が不自然にグラつきやすい
という問題が起きます。
② 踵接地は“脛骨(すね)を適切に前傾させる”起点
踵で初期接地すると、
-
脛骨が自然に前傾
-
大腿骨と脛骨が安定した角度を形成
-
膝関節に「ショック吸収能力」が発動
つまり、踵接地は膝を守る第一段階。
つま先接地から後で踵を落とすと、
この前傾が逆方向の力(後方せん断力)となり、
膝の関節包・ACL周囲に余計なストレスがかかります。
③ “つま先接地 → 踵接地”は膝の過伸展(反張膝)を誘発
つま先から着地すると、
-
足関節が底屈位(つま先が下)で接地
-
その後(後ろ方向へ)足裏→踵が接地
-
結果として 膝が過伸展する
膝関節の構造上、過伸展は
-
膝窩部の組織ストレス
-
前十字靭帯(ACL)の負担
等につながります。
「つま先 → 踵」の順序は、生体構造的に不自然な動作なのです。
■ 3. 「つま先接地がスムーズ」という誤解が生まれる理由
SNSの中には、
「つま先で接地した方が体重移動が速い」
「走る時はつま先だから歩行もそうすべき」
といった主張があります。
しかし、歩行と走行は全く別の運動です。
● 歩行 → 両脚支持期が存在する
● 走行 → 常に“浮いている時間”がある
走行は衝撃吸収が“筋力主体”で、
つま先・前足部接地が有利になる場面もあります。
ですが…
歩行は「省エネルギー」。
最もエネルギー消費が少なく安全なのが“踵接地”。
人間は本能的に最もエコな動作を選ぶように設計されており、
その結果が“踵接地での歩行”なのです。
■ 4. 踵から接地すると何が良いのか?
① 衝撃を吸収できる
— 踵の脂肪体、足部のアーチ、膝のショック吸収機構が働く
② 重心移動が自然に行われる
— 重心に対して足が後からついてくる
③ エネルギー効率が高い
— 歩行の省エネ化(遊脚期に働くストレッチショートニングサイクル)
④ 膝の過伸展を防ぐ
— 大腿四頭筋・ハムストリングスが協調して働く
■ 5. まとめ
つま先接地は「走りの理論」であり、
歩行には生体力学的に適合しません。
歩行の初期接地は踵。
これは
-
衝撃吸収
-
重心移動
-
省エネ動作
-
膝・足首の安定
-
過伸展の防止
という、人間の歩行システムの要です。
巷には誤った情報がたくさんあります。
すぐに鵜吞みにせず半信半疑で情報をとりましょう。
迷ったら私にご相談ください。
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